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第25話 2回目のクリスマス(前編)

「今日は7時開始だ。6時に家を出るから準備しとけよ」

そう言われたら、普通はどんなに早くても準備し始めるのは5時くらいだろう。
でも、3時半には美容師やらメークアップ担当やらがやってきた。

「まずはお召し物を変えてください」

へいへい。
先日出来上がったばかりのワインレッドのドレスに腕を通す。
すごーい!ピッタリ!!
採寸したときよりお腹もだいぶ大きくなってるのに、ピッタリだ。
プロってすごい!

そこから2時間、気分はマネキン。
あれよあれよと言う間に、髪がセットされ、化粧が施され、手足の爪にマニキュアが塗られる。
統矢さんのお母さんのものという宝石のついたネックレスにイヤリング、ブレスレットを装着し、
戦闘態勢は万全!!!
じゃなかった、パーティの準備万端!!

「ユウ、準備できたか?」
「はい!どうですか?」

部屋に入ってきた統矢さんの前で、クルリと一回まわる。
統矢さんも既に例の濃い紫のスーツに身を包んでいる。
やっぱりこういう格好も似合うな。

「・・・悪くないんじゃないか」
「・・・それだけですか」

ちぇっ。
姿見の中を覗く。
うん。誰だ、これ、ってくらいには化けてると思う。綺麗だぞぅ、私。
目立たないデザインとはいえ、いかんせんお腹が大きいので、色気はないが。

「それは腹が大きいとか大きくないの問題じゃないだろ」
「そーですね」
「行くか」


玄関に向かう途中、食堂による。
大輔たち何人かがたむろしてる。

「ねえねえ、どう!?」

おおー!
と歓声が上がり、続いてある言葉が発せられた。

「馬子にも衣装」

見事なまでの異口同音。
アリガトウ。


ふてくされながらリムジンに乗る。
去年は台所の窓から前の組長と統矢さんがこれに乗るのを見てたんだっけ。
それが今年はこうやって私が統矢さんと一緒に乗っている。
不思議なものだ。

「おい。いい加減機嫌直せよ」
「ほっといてください・・・お腹大きくて動きにくいし疲れやすいし、化粧品とかスプレーとか
香水とかの匂いも気持ち悪いのを我慢して準備したのに・・・ひどいです」

言っているうちに涙が出そうになる。
私ってこんなにヒガミっぽくて涙もろかったか?

最近こういうことが多い。なんでもないことに異常に悲しくなったり怒ったり、涙が出たりする。
マタニティブルーという精神的なものらしい。
マリッジブルーの妊婦版。

統矢さんも私のそういう状態をよくわかっている(というか、私にしょっちゅう八つ当たりされている)
ので、反撃することなく慰めてくれる。

「悪かったよ。うん、綺麗だから。化粧崩れるぞ、泣くな」
「・・・はい!」

そう言われると今度は急激に嬉しくなってハイテンションになる。
この陽と鬱の繰り返しが結構辛かったりする。
出産が終われば、元に戻るんだろうか。


「着きました」

運転席に繋がる小窓が開き、運転手がそう告げた。
リムジンなので、後部座席は独立した部屋になっているのだ。

窓の外を見ると、お洒落で大きな洋館の前に車は止まっていた。
すかさずボーイがリムジンの扉を開ける。

「すごいですね、この洋館」
「うん。明治時代に建てられたものらしい」

確かにそんな感じだ。
かつては夜な夜な舞踏会でも開かれていたのだろう。

館内も期待を裏切らず素晴しいものだった。
シャンデリアなんて、まるで「オペラ座の怪人」のそれだ。
クリスマスということで装飾はいささか派手だったが、普段はもっとおとなしく洗練された感じなんだろう。

でも、統矢さんはそんな玄関ホールを足早に駆け抜け、会場らしい部屋まで一直線に歩く。
時計を見ると、もう7時5分前。
ギリギリだ。
こういうパーティって、もっと余裕を持って来るものじゃないのか。
私の準備が遅かったかな?

いや、そうじゃないだろう。
この毎年クリスマスイブに開催される政治家達主催のパーティには、
廣野家は必ず招待されるものの、ヤクザということで招かれざる客だ。
こうして開始直前にサッとやってきて、挨拶だけ済ませたらサッと帰るのだ。


会場の前に立つとボーイが扉を小さく開けた。
私たちが誰か心得ているようだ。

統矢さんと私は滑り込むように中に入り、壁伝いに部屋の一番隅へ寄る。
そこでようやく私は会場全体を見渡した。

―――眩しい!!
会場自体の照明もキラキラと眩しいのだが、
それ以上に、参加者の装飾品、テーブルに置かれた食器、並べられたボトル・・・
そんな一つ一つが眩いばかりの輝きを放っている。
でも何よりも眩しいのは、参加者たちが放つ内なるオーラというか、貫禄というか・・・
セレブならではのものだろう。

「身体、しんどかったら座っていいぞ」

見ると壁沿って椅子が並べられている。
パーティは立食式のようだが、疲れた人の為に椅子が用意されてるのだろう。

「大丈夫です。ヒールも低いし・・・しんどくなったら座ります」
「ああ。無理するな」


程なくして、司会者がパーティの開始を告げ、なんとか省の大臣が挨拶を始める。
チンプンカンプンな内容に思わず「学校集会での校長の話」を思い出してしまった。

話が終わりに近づいた頃、ボーイ達が参加者にシャンパンを配る。
乾杯のようだ。

しかし!
なんとか大臣の後、乾杯に指名された、なんとか会長は「では、乾杯」とは言わず、
これまた長々と挨拶を始めた。
相変わらずチンプンカンプンだが、さっきの大臣と同じ事を言っているのは気のせいか。

それでもなんとか乾杯に漕ぎつき、私はペロッとシャンパンを舐める。

「!!!美味しい!!!」
「うん、料理と酒はさすがに一流品だぞ」
「・・・統矢さん、このシャンパンだけ飲んでもいいですか?」
「一杯くらい大丈夫だろ。妊娠してからずっと飲んでないんだろ?」
「はい!」

ごめんね~、蓮!酔っ払わないでね~。この一杯だけ許して!
そう思いながらチビチビと久々のお酒を味わった。

私が飲み終わると、統矢さんは「手、かけて」といい、肘を出した。
・・・なんか恥ずかしい・・・
でも言う通りにすると、統矢さんはゆっくりと、でも隙のない足取りで会場を歩き始めた。

私は統矢さんの肘に手を掛けたまま、一歩遅れてついていく。
これはあくまで私の推測ではあるが、
統矢さんて、一見自分と肩を並べて歩くくらいの堂々とした女性が好きそうだけど、
実は古風に三歩下がって歩く女が好きなんじゃないかと思う。
跡取り息子として、それこそ王子様のように育てられてきたから、と言うのではなく、
単純にそういう女性がタイプな気がする。

私は、というと間違ってもそんなタイプじゃない。
どちらかと言うと一人で突っ走っていくタイプ。
でも、統矢さんといると、なんだか一歩下がったこの場所が妙に居心地がいい。
別に尽くしたい、とか思ってるわけじゃない。
たぶん・・・私は統矢さんの背中が好きなんだと思う。
見ていて安心する。
この背中にはあの立派な鷹の刺青がある、それを今自由に見れるのは私だけだ、
そう思うだけで幸せな気分になれる。

おお、こんなおセンチなことを考えてしまうのもマタニティーブルーってやつか!?
すごいぞ、蓮!


さて、そんな私のことなど露知らず、統矢さんは挨拶をし回っている。
と言っても、会う人、会う人に挨拶するわけではない。
これぞ、という人にだけスッと近寄り、軽く挨拶をし、また歩く、の繰り返し。
挨拶の内容も、前の組長が亡くなり自分が組を継いだことと、私の紹介のみ。
余計なことは話さない。
まさに、「目立たないように、でも出席していることだけアピール」という感じだ。
私も統矢さんにならって、「廣野の妻です」とだけ言って会釈するのみ。

それでも会場を1周するのに30分はかかった。

「よし・・・!任務終了!おつかれさん。食うだけ食って帰ろうぜ」
「はい~!」

やったー!でもガッツク訳にいかないよなー。


「統矢」

その時後ろから声がした。
凛として透き通った声。
小さいけどしっかりしていて聞き取りやすい声。
でも、統矢さんのことを呼び捨てするなんて・・・誰?



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Category : [18years]本編 | Theme : 自作連載小説 | Genre : 小説・文学 |

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