スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Category : スポンサー広告 |

第16話 静かな騒動

その日の廣野組は上へ下への大騒ぎだった。

統矢さんと幹部連中はあちこちに電話を掛けまくり、
出かけては帰ってきて、またすぐ出かける・・・の繰り返し。
その他の組員は、マサさんら上層部を中心にお通夜とお葬式の準備。
私たち女中は、お通夜と告別式の後に出す食事やお酒の準備。
夏休み中のコウちゃんも、女中と一緒になって力仕事をしてくれた。

でもそれは、どこか「静かな大騒動」だった。
みんなめちゃくちゃ忙しくて、あちこちで人の声が飛び交っているにも関わらず、
どこか静かだった。
だけど、統矢さんも含めて涙に暮れる人はいなかった。

忙しさのせいもあるけど、それだけじゃない。
組長は、ただただ泣いて悼むようなことをしても、喜ばない人だ。
それよりも、自分達のするべきことをちゃんとしている方が喜んでくれるだろう。
みんなそれをわかっているから、ひたすら目の前の自分の仕事に打ち込んだ。

それに。
一種の高揚感もあった。
世代が変わる。
20年続いた廣野大吾の時代が終わり、廣野組の新しい時代が始まるのだ。
若い新組長への期待と不安。
それが相まって、みんな涙どころではなかった。

そしてもう一つ、私には涙のない理由があった。
組長は、駆けつけた安藤先生により、
「心臓発作ですね。苦しかったのは数秒だと思います」
と診察された。
仰向けになっていたのは、たぶん発作の苦しさからだろう。
身体を綺麗にされた組長は、なんだか別人のようで、
私にとってそれはもう組長ではなかった。
だから、もう涙もでなかった。


翌日の午後6時。
廣野家の大広間でお通夜が始まった。

全廣野組員はもちろん、組外からも色んな人がきた。
違う組の組長や幹部もきた。
テレビでしょっちゅう顔を見る政治家も何人もきた。
警察関係者もきた。

お屋敷の中は騒然となり、下っ端の組員や女中はお通夜どころではなかった。


「ユウ、ちょっと私の部屋においで」

組外の人が大体帰り、やっと一息ついた時、お藤さんに呼ばれた。

「姿見の前に立って、服を脱ぎな」
「?はい」
「お前、喪服持ってないだろう。これを着させてあげるよ」

そう言ってお藤さんは姿見の脇においてあった包みを持ち上げた。
今日の午後になって私は自分が喪服を持っていないことに気がつき焦った。
でも買いに行く時間もないので、取り合えず黒い服を着ていたのだ。

お藤さんが取り出したのは黒い留袖だった。
袖には廣野家の紋がある。

「お藤さん・・・これ・・・」
「お通夜が始まる前に、統矢さんと幹部らに許可を得て借りてきた。組長の亡くなった奥様のものだ」
「・・・私が着ていいんですか?」
「許可を取ってあると言っただろ。早くしな」
「はい」

組長の奥さんの喪服・・・廣野家の紋が入った服・・・それを着るというのは・・・

「苦しくなるといけないからね。帯は緩めにしておくよ」
「・・・ありがとうございます」

さすが普段から和服のお藤さんだけあって、あっという間に着付けてくれた。
さらに、髪も簡単にまとめ、薄化粧もしてくれた。
普段全く化粧をしない私は、薄化粧でも肌が息苦しい。
でも、姿見の中の自分をみて驚いた。

「うん。なかなか見れるじゃないか」
「・・・私じゃないみたいです」
「ユウは小柄だし体型的にも和服が似合うね。喪服でこんなこと言うのもなんだけど」
「いえ。ありがとうございます」

お藤さんに手を引かれ、なれない和服で廊下を大広間へと向かう。
ドキドキするなあ・・・本当に、私がこの着物で入って行っていいのだろうか・・・

お藤さんの後姿を見る。
誰も知らないけど、組長とお藤さんは腹違いの姉弟だ。
今、お藤さんはどんな気持ちなんだろう・・・
この着物を着るべきなのは私ではなく、お藤さんじゃないんだろうか。
でもお藤さんはそんなことは微塵も感じさせず、
当たり前のように私にこの着物を着せてくれた・・・

案の定、私が大広間に入ると全員の視線が一斉に私に・・・というか、着物の紋に集まった。
私のことを知らない人も、この着物を着ている私の立場が一瞬にしてわかるのか、
帰り際にお辞儀していく人までいる。

背中に冷や汗をかきながらもなんとかお焼香を済ませ、統矢さんに一礼する。
って、なんか間違ってないか。
普通この着物を着る人は統矢さんみたいに、参列者を迎える立場だと思うんだが。
でも、統矢さんは気にすることなく、少し微笑み軽く礼を返してくれた。


その夜。
お通夜の片付けが終わり、みんな部屋に引き上げたころ、私は大広間へ行った。
統矢さんが組長のそばについていた。
廊下には見張りの人が何人もいたけど、大広間は統矢さん一人だった。

「統矢さん」
「ユウか」

統矢さんのそばに座ろうと、両膝をつく。まだ着物なので正座くらいしかできないからだ。
すると、統矢さんが自然に私の胸に頭を預けてくる。
私も自然に統矢さんの頭を抱きかかえた。

「ごめん、ちょっとこのまま・・・」
「はい・・・」


しばらくして、統矢さんが静かに口を開いた。

「何の用だった?」
「昨日から寝てませんよね?火の番、代わりましょうか?」
「俺を気遣ってくれてるなら大丈夫。でもユウが親父のそばにいたいなら代わるよ」
「・・・どっちもですね」

統矢さんは、ふふっと笑った。

「親父も俺よりユウが一緒の方がゆっくり寝れるだろうな。頼むよ」
「はい・・・統矢さん、組長はなんで私とは一緒に眠れたんでしょう?」
「うーん、たぶん・・・お前は下心がないっていうか、なんでもすぐに顔にでるからな。
組長に敵意はないです!ってオーラが出てたから、親父も安心できたんだろ。
この世界は一皮剥けば敵だらけだから、お前みたいな単純明快な女は珍しい」
「それって褒めてるんですか?」
「微妙なとこだ」

そう言うと、統矢さんは肩をすくめて立ち上がった。

「あの・・・」
「うん?」
「・・・いえ、やっぱり今はいいです。おやすみなさい」
「おやすみ」

そう、何も急ぐことはない。
統矢さんにも私にもこれから時間はたくさんある。
昨日、今日と統矢さんは廣野組の跡取りとして走り回ってた。
息子として父親の死を悼む時間も必要だ。

私は組長の遺影を見た。

組長・・・
私、組長なしでこれからここでやっていけるでしょうか?
統矢さんを信じてついていけば大丈夫でしょうか?

もちろん組長は何も答えてくれない。
そう。この答えは自分で見つけなくては。



↓ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります!
★ここをクリックしてください★

目次     前話<  >次話



COMMENT : 0
TrackBack : 0
Category : [18years]本編 | Theme : 自作連載小説 | Genre : 小説・文学 |

COMMENT

Comment Form


秘密にする
 

TRACKBACK

TrackBack List

Copyright © タロウの書き散らし小説 All Rights reserved.
Designed by サリイ  Illustration by ふわふわ。り  
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。