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第34話 お藤さんの秘密

「おつかれさま〜」
「おつかれ。ユウは特にだね」

その意味に思わず顔が赤くなる。

1月3日。
台所で私はお藤さんと二人、お昼過ぎに日本酒で乾杯した。

12月30日の忘年会から今日まで、忙しかった。
本当に忙しかった。

忘年会の翌日の大晦日、ほとんどの組員が帰省した。
でも組長と統矢さんはもちろん、他にもお屋敷に残る人達がいるため、
女中としての仕事はある。

しかし!
宏美さんと由美さんは帰省、美月さんもご両親は他界しているが親戚の家へと旅立った・・・
つまり、大晦日から今日までの4日間、廣野家にいる女中はお藤さんと私だけということになる。
二人でこのお屋敷のことを全てやるのは・・・本当に大変だった・・・。

でもようやく明日、女中のみんなが帰ってくる!!
と、いうわけで、お藤さんと乾杯して互いの労をねぎらっているのだ。

「組員が戻ってくると、またしばらく話題に事欠かないねえ」
「・・・はい・・・」

忘年会の夜以来、また統矢さんが頻繁に私の部屋に来るようになった。
会社が正月休みということで、統矢さんも新年の挨拶回り以外は昼間も家に居るため、
昼間は統矢さんと、夜は組長と、そして合間に女中の仕事を、驚異的な体力で私はこなした。

特に統矢さんは久しぶりなためか・・・その・・・とにかく大変だったのだ。

お藤さんが先ほどから「ユウは特に大変だった」とか「話題に事欠かない」と言っているのは
そのことだ。


そうそう。大晦日といえば。
大晦日の午前中、統矢さんの部屋でまどろんでいると、
「年の瀬に申し訳ないのですが」と警察から呼び出しがかかった。
私を襲った被疑者を逮捕したので、確認して欲しいとのこと。

せっかく夢見心地だったのに、あっという間に現実に引き戻されてしまった。
でも、統矢さんが一緒に言ってくれるというのでまた夢見心地になった。
私って単純。

「よくまあ生きてたもんだ」と感心してしまうくらい包帯でグルグル巻きの5人組は、
間違いなく私を襲った奴らだった。
後でこそっと警察の人に「あの人たち、どうやって捕まえたんですか?」と聞いたら、
「クリスマスの日に段ボールに詰められて警察署の玄関に置かれてたんだよ。すごいクリスマスプレゼントだよね。聞きもしないのに、ペラペラとなんでも話してくれて即逮捕したんだけど、あまりに怪我が酷くて今日まで入院させてたんだ」
とのこと。
有言実行。恐るべし。

こいつらの証言で村山一家の存在も明らかになったようで、そちらの調査も進められているようだ。



「よかったね」

ぼんやりと宙を見つめながら、お藤さんが呟いた。

「何がですか?」
「統矢さんのことだよ」
「・・・はあ」

お藤さんにも私の気持ちはバレバレか。

「ただ・・・しっかりするんだよ」
「え?」

お藤さんは私の顔を見つめると、覚悟を決めたように話し出した。

「ユウには話しておいたほうがいいかもしれない」

以前私が入院した時、
お藤さんは自分が組員と女中の間にできた娘で、
組員の方は逃げてしまったが、母親と共に廣野組に残り女中になった、と話してくれた。

だけど、それは半分嘘だった。

お藤さんの父親は逃げてなどいなかった。
逃げられる人物ではなかったのだ。
なぜなら、その人は当時の組長だったから。

当時の組長・・・つまり、今の組長の父親だ。

「じゃあ、今の組長とお藤さんは・・・」
「腹違いの姉弟さ」
「!!!」
「今となっては知っているのは組長だけだ。たぶん、統矢さんも知らない」

前の組長と奥さんの間には子供がなかった。
そして、その組長は女中と恋仲になり、女中が身ごもってしまった。
奥さんは怒り狂ったが、自分に子供ができないという負い目と、
女中が産んだのが女の子で跡取りにはできないという安堵から、
なんとか丸く治まった。

女中は娘と一緒に出て行くことも考えたが、組長が許さなかった。
しかし娘が5歳のとき、ついに奥さんが身ごもり、しかも産まれたのが男の子だった。

女中は今度こそ出て行こうとしたが、
それを止めたのは、なんと奥さんだった。
自分も母親になり、その苦労と子供の可愛らしさを身にしみてわかり、
女中にこのまま廣野組で働くよう頼んだという。

「お陰で、母も私も路頭に迷わなくてすんだんだ。肩身の狭い身分ではあったけど、
弟もかわいくてね。気がついたら60年たってたよ」

60年・・・なんと長い時間。
その間、お藤さんは廣野組と弟である今の組長をずっと見守ってきた。
自分は女中として働き、結婚もせずに、ずっと。

お藤さんは何を思い、何を考えてきたのか。
私みたいな若輩者には想像を絶する。

「ユウが本当に幸せなら何も文句はないんだがね・・・こういう世界だ、堅気で育った女には、
辛いことや理解できないことも多々あると思う。
ヤクザの女になるなら、心をしっかり持たないといけないよ」
「お藤さん・・・ありがとうございます」

胸が熱くなった。
統矢さんすら知らないお藤さんの、廣野家の秘密を私に話してくれたのは、
本気で私の身を心配してくれているからだろう。

そう、本当に「組長の女」になるなら色々覚悟をしないといけない。
その「組長」が今の組長でも、次の組長でも。


その時、私は覚悟を決めた。
何があっても自分を見失ってはいけない、
愛する人を信じないといけない。


でも・・・


その覚悟は甘かった。
私は2年後、それを痛いほどに思い知ることになるとは、
その時は全く思わなかった。


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Category : [18years]本編 | Theme : 自作連載小説 | Genre : 小説・文学 |

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