スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Category : スポンサー広告 |

第10話 母親の嘘

俺の母親、岩城結子(いわきゆうこ)は、
19歳の時、たった一人で俺を産んで育ててきた。

子供の頃はそれがどんなに大変なことかわからなかったが、
自分が、母さんが俺を産んだ年齢に近づくにつれ、
一体どんな覚悟で俺を産んでくれたんだろうと考えることが多くなった。

幼稚園の頃くらいまでは、無邪気に

「どうして僕にはお父さんがいないの?」
「お父さんってどんな人だったの?」

と母さんに聞いていた。

それは、決して寂しかったからではない。
純粋な好奇心からだ。

片親でも子育てしやすい環境だった為、
俺の周りには片親の家庭がたくさんいた。

ほとんどが母子家庭。
たまに父子家庭もいた。

父子家庭はなんだか母子家庭より大変そうだった。

こんなことがあった。
小学校の頃、

「明日からお箸とコップを名前の書いたお弁当袋に入れて持ってきてくださいね」

と担任に言われた翌日、父親と二人暮らしのソイツはお箸とコップをコンビニ袋に入れて持ってきた・・・
その袋にはご丁寧に指定通りマジックで名前まで書いて。

母子家庭でも、うちの母さんならやりかねないが一応そこはクリアーした。
(俺が気づいていないだけで、クリアーできてないことも多々あったかもしれないが)


話がそれたが、周りがそんなんばっかりだったせいか、父親がいないことを寂しいとも、
不思議だとも思ったことはなかった。

そんなことよりもっと現実的な問題があった。
恐ろしく貧乏、ということだった。

うちにあった大型家電は、洗濯機・冷蔵庫・電子レンジのみ。
エアコンやらテレビはなかった。
いや、今でもない。
平成の世にあって、昭和の三種の神器もろくにそろっていない家庭なんて、
そうそうあるまい。

でも生まれたときから無いと、不便もないもんである。
見たいテレビがある時は、隣のサナんちで見たし、
暑い夏と寒い冬は図書館で過ごした。

金なんか無くても人間なんとかやっていけるもんだ。

ただ、俺の進学についてはそうは行かなかった。
中学までは義務教育だから仕方ないが、
高校・大学は鼻っから諦めていた。

でも母さんは一人で頑張った。
俺が小さいころは昼間は小さな会社の事務員として働き、
夜は家で内職をしていた。

俺が一人で夜留守番できるようになった頃からは、夜は24時間のコンビニでアルバイトをし、
余ったおにぎりなんかを抱えて、日付変更線がとっくに変わった頃に帰ってきて、
朝また会社へ行く、という生活をしていた。

そして、俺が知らない間に俺が高校3年間過ごせるだけでなく、大学に進学できるくらいの金を
貯めてくれていた。


小学生の頃は、貧乏ってことがとにかく恥ずかしかった。
同級生からもずいぶんバカにされた。同級生の親からも同情の目で見られた。
小学校の卒業アルバムの中の「将来の夢」という項目に、
「安定した大企業のサラリーマン」と書いて大人から失笑を買ったが、あくまで本心だった。

だが、不思議なもので中学生になった頃からは、

「岩城さんところの蓮君は貧乏なのに、あんなに勉強ができて・・・」
「貧乏にも負けず運動も頑張ってるみたい。こないだの空手の大会でも優勝したみたいよ」

と、「貧乏である」が褒め言葉になってきた。
大人って現金だ。
そうなるとその子供達も俺に一目置くようになってきた。

そりゃ、暑いから・寒いからと言ってあれだけ図書館に入り浸ってりゃ勉強の一つもできるようになるさ。
勉強が嫌いなサナも、俺に付き合って図書館によく行っていたから、中学生になる頃にはクラスで常にベスト5に入る成績をキープしていた。

「蓮は学年でベスト5だけどね」

とサナにはよく皮肉られたが。
貧乏人はね、家でも本読んだり勉強したりするくらいしかすることがないんですよ。

空手に関しては、まだ見ぬ(というか、おそらく一生見ぬ)父親に感謝するしかなかった。
体格といい機敏性といい、これは生まれ持った才能だろう。

50メートルを走らせたら15秒を絶対切れないであろう母親の血を譲り受けなかったことにも感謝したい。

母さんは148センチ・45キロとなんとも愛らしい体格をしている。
黒目がちな大きな瞳に小さな鼻と口。
これで髪の毛が短ければ少女のようだが、髪だけは俺が物心付いたときからずっと、
腰まではあろうかというくらいに長い。

あまり「ふける」ということを知らない身体らしく(どんなだ)、
現在37歳だが、30歳でもじゅうぶん通るだろう。


そんなまだ若い母さんが胃癌になった。
最初それを聞いたとき「働きすぎだろ」と思った。
そして初めて少しだけ父親を恨んだ。

それまでは父親のことなんて意識したことなかった。
いや、全く意識しなかったと言えば嘘になるが、
生まれた時からいなかったんだ、恋しがれとか恨めとか言われる方が無理だ。

母さんも父親の現在の消息を全く知らないという。

「破天荒な人だったからねえ・・・今頃はどこかで野たれ死んでるか、大企業の社長でもしているか・・・もしかしたらマフィアにでもなってるかしら・・・」

普段、絶対嘘をつかない母さんだが、この言葉だけは嘘だった。
母さんは知っていたはずだ、父親がどこで何をしているかを。
だから「マフィア」なんて言葉が出てきたんだろう。

和製マフィア。

まあ、当たらずとも遠からず、ってとこか。



↓ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります!
★ここをクリックしてください★

目次     前話<  >次話 



COMMENT : 0
TrackBack : 0
Category : [18years]本編 | Theme : 自作連載小説 | Genre : 小説・文学 |

COMMENT

Comment Form


秘密にする
 

TRACKBACK

TrackBack List

Copyright © タロウの書き散らし小説 All Rights reserved.
Designed by サリイ  Illustration by ふわふわ。り  
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。